低温貯蔵、中でも冷凍貯蔵は、食品の栄養や風味を損なうことなく長期保存が可能な優れた保存法です。
では、なぜ食品は低温下だと長期保存することができるようになるのでしょうか?
温度低下によって、食品にはどのような変化が起こるのでしょうか?
 

品質を保持する低温貯蔵

果実や野菜、魚介類、畜肉類などの生鮮食品は、そのまま放置しておくとどんどん品質が劣化します。
多くの保存方法は、食品本来の姿かたち、風味、味、栄養などの変化を伴います。
とりわけ青果、食肉、魚介などを本来の状態で長期保持するのは難しいことです。
これを可能にするのが低温下での貯蔵です。
低温を利用した貯蔵には、食品の温度を下げて冷却状態で保存する冷蔵と、さらに温度を下げて食品を凍結した状態で保存する冷凍があります。
貯蔵食品の種類や用途によってそれぞれに適した温度帯が利用されています。
比較的短期間の保存であれば冷蔵、長期の保存なら冷凍が、食品の品質維持に有効です。
 

品質変化に関わる5つの要因

なぜ低温下では、食品の品質の変化を遅らせることができるのでしょうか。

食品の品質変化の要因として、
①微生物による作用(腐敗・発酵)
②食品中の酵素による分解などの作用
③酸化などの化学作用
④乾燥などの物理作用
さらに果実・野菜では、
⑤呼吸や蒸散など、食品自体の生理活性作用
が挙げられます。

酵素や微生物によって食品成分は分解・腐敗し、品質は変化します。また、酸化・乾燥などで食品の風味は損なわれ、栄養価も減少します。果実・野菜は収穫後も呼吸や蒸散を続けています。

時間とともにエネルギーや水分を消耗していくため、栄養価は低下して見た目もしなびていきます。冷蔵・冷凍による保存方法では、食品本来の特性はさほど変化させずに酵素や微生物による分解・腐敗を抑制し、酸化・乾燥や生理活性作用への対策も講じることができます。
 

低温が微生物の増殖を抑える

一般に微生物は温度が下がるほど増殖しにくくなります。なぜなら、微生物の細胞内の酵素活性が下がるためです。
たとえば、食中毒細菌の多くは中温細菌と呼ばれ10℃以下では増殖しにくく、0℃になるとほとんど活動できません。低温細菌と呼ばれる比較的低温に強い細菌も、-10℃以下ではほとんど増殖しなくなります。(図表2)
さらに冷蔵から冷凍へ食品の温度を下げていくと、食品中の水分は凍結されて氷となります。すると微生物が利用できる水分が減るので、微生物の活動はより低下します。

乾燥が微生物の増殖を妨げるのと同様の理屈です。冷凍によって微生物の増殖は抑えられますが、完全に死滅してゼロになるわけではありません。食品中に何がしかの微生物がいれば、解凍後に再び活動を開始します。

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温度が低いほど品質変化は遅くなる

一方、酵素は低温に強く、一部の酵素は-30℃でも作用します。完全に作用を停止させるには、-35~-40℃にする必要があります。食品の品質低下をもたらす酸化などによる化学作用、乾燥などの物理作用も温度が高いほど進行が早く、温度が低いほど遅くなります。呼吸や蒸散など食品自体の生理活性作用も温度が低くなるほど低下し、細胞が凍ってしまえば活動を停止します。

このように品質変化に関わる5つの要因は、低温では作用しにくくなり食品の品質は保たれます。
 

適正な冷凍温度とは?

食品の品質は低温なほど変化しにくいと言っても、その保管のために低温を保つには冷却エネルギーが必要ですから、経済的な問題に直結しています。

品質保持期間は、-18℃より-25℃、さらに-30℃の方が長くなります。(図表3)しかし、低温になるほどコストもかかるので、多くの食品で12か月間の保存が可能となる-18℃以下が、冷凍食品の保存温度の世界的な基準となっています。

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凍結のメカニズム

冷凍で保存する場合、凍結によって生じる氷が食品にどのような影響を与えるかが問題となります。食肉・魚介では、その7~8割、青果では8~9割以上を水分が占めます。

食品を冷却していくと、この水分が固体である氷に変化します。

水が氷になると体積が膨張します。食品の細胞中に大きな氷の結晶ができると細胞は破壊され、その状態のまま凍結されてしまいます。

解凍すると、壊れた細胞から出た水分がドリップとして流れ出し、水分とともに味覚成分や栄養も失われ、食品自体の歯ざわりも悪くなります。氷の結晶が小さければ、このダメージは小さくなります。

水が氷の結晶に変わる温度は、氷結点と呼ばれます。

氷結点は、純粋な水であれば0℃ですが、何かの溶液の場合は、濃度が高いほど氷結点は低くなります。食品中の水分にはアミノ酸やミネラルなどが溶け込んでいて、食品の氷結点は食品ごとに異なりますが、ほぼ-1~-5℃の範囲となっています。
氷結晶が生成する温度帯は「最大氷結晶生成帯」と呼ばれ、この温度帯を長い時間をかけて通過するほど、氷結晶は大きくなります。このような緩慢凍結よりも、最大氷結晶生成帯を短時間に通過させて氷の結晶を小さく留める急速凍結のほうが、冷凍した食品としての品質は良好といえます。(図表4)

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野菜の冷凍耐性を高めるブランチング

野菜・果実は8~9割以上が水分で組織も弱く、そのため一般に野菜・果実の冷凍耐性は低くなっています。そのまま冷凍すると細胞が破壊され解凍したときに形が崩れやすく、冷凍中および解凍中に進行する酵素作用によって変色や異臭の発生も生じ商品価値を失ってしまいます。枝豆などの豆類・イモ類・コーン・カボチャ・ホウレンソウなど一部の葉ものについては、冷凍耐性を高める方法として、沸騰水に短時間くぐらせた後、冷水で急冷してから凍結することが行われています。

組織をある程度柔軟にすることで凍結による野菜の細胞破壊を防ぎ、加熱により酵素の活性も止められます。これを「ブランチング」と呼びます。(図表5)食品表面の細菌を殺す衛生面での効果もあります。

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冷凍下の乾燥と酸化

冷凍下であっても、温度や保存状況によっては乾燥や酸化が生じて、食品の品質低下を引き起こすことがあります。冷凍食品の表面が乾燥しぱさついた状態になるのは「冷凍焼け」と呼ばれます。

これが起こると食品の表面積が増えるので、空気中の酸素の影響をより受けやすくなり、食品中の脂質が酸化し始め「油焼け」の状態を引き起こしてしまいます。

特に脂質が酸化しやすいのは、高度不飽和脂肪酸を多く含む青物の魚類です。たとえば、サバは18℃以下でも脂質の酸化は進んでしまいます。(図表6)

それを抑えるためには、より低い温度での保管が必要です。豚肉などは高度不飽和脂肪酸を含まないので、
-20℃で9か月貯蔵しても、ほとんど変化が見られません。

冷凍中の食品表面の乾燥を防ぐためには、食品の表面に薄い氷の皮膜(グレーズ)ができるように凍結する、「グレーズ」処理が施されます。氷の皮膜から水分子が昇華している間は、食品自体の水分は保たれるようになります。これは空気を遮断するので脂質の酸化防止にも有効です。また、商品に使用する包装材料に水分を透過させない材質のものを使用して、パッケージ内が一定の湿度に保たれるような工夫もされています。

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超低温が実現した刺身用冷凍マグロ

ひとことに冷凍といっても、個々の食品の物理的な性質によって、冷凍すること自体が食品の品質に及ぼす影響は異なります。

冷凍に強い食品、つまり冷凍耐性のある食品とは、含まれている水分量が比較的少なく、組織がしっかりしている食品です。その代表的なものが畜肉類で、次点は魚介類ですが、筋肉タンパク質の冷凍耐性が魚種によって異なることから、魚介類の中には障害が起きるものもあります。

一般に冷凍耐性が強いのは、回遊魚であるマグロ・カツオなどの赤身魚、水分含量は多いが組織がしっかりしているタコ・イカ類です。
逆に冷凍耐性が弱いのは、タラ・メヌケなどの白身魚やエビ・カニ類で、水分含有が多く組織も脆弱です。
特に冷凍耐性が極端に弱いのが、肉の保水性が低下している産卵直後の魚や脱皮後のカニなどです。冷凍によりたんぱく質が変性してスポンジ状になり、解凍の際にドリップがたくさん出てしまいます。

ただしマグロは、通常の冷凍の貯蔵温度である-18℃では不十分です。良いマグロの必須条件のひとつに、見た目の色の良さがあります。

無防備な状態で放置すると、マグロの赤い色はすぐ褐色に変わってしまい価値が低下します。マグロの変色の進行は-35℃の貯蔵であればほぼ抑えられ、さらに-65℃以下の超低温では赤い肉色がそのまま維持できます。(図表7)

これが解明されたのは1960年代のことで、以降、超低温の冷凍技術の発達とともに私たちの食卓に鮮やかな赤い色の遠洋の冷凍マグロが登場することになったのです。

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栄養価の減少はわずか!

本来、食事の基本的な目的は、人体の生命維持に必要な栄養を摂取することにあります。食品の保存・加工方法の中には食品の栄養価の変化を伴うものもありますが、冷凍保存の場合、栄養価を低下させることはほとんどありません。(図表8、9)

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冷凍による保存は、魚介・畜肉・野菜などの素材から刺身のような生で食べる食品、調理済み食品までの幅広い食品を添加物なしに保存できて栄養価の低下もごく僅かです。

冷凍のように食品本来の特性を保ったまま長期間維持できる優れた保存法は、他には見当たりません。現在の冷凍食品の生産では、食品の物性にあわせた急速凍結の方法はもちろん、酸化や乾燥などの対策も万全に行われています。

製造後の保管の段階では、-25~-30℃の低温下の冷蔵倉庫、あるいは-50℃以下の超低温倉庫で、食品ごとに適切な温度で保管されています。

昨今では流通の過程での温度・衛生管理向上の取り組みも増え、冷凍食品の品質劣化は格段に抑えられています。近年では、海外を含めた遠距離間の流通なしに食品供給は語れません。

食品の品質をできるだけ維持・向上させようとするには、冷蔵・冷凍温度帯での保管は不可欠といえます。

多様かつ高品質な現在の私たちの食生活は、こうした冷凍をはじめとする低温下での加工保存技術に支えられているのです。

 
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